量子力学のおななし~青木先生~ | 東進ハイスクール 武蔵小杉校 大学受験の予備校・塾|神奈川県

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2023年 12月 14日 量子力学のおななし~青木先生~

    Salut! いかがお過ごしでしょうか.僕は大学の学園祭(三田祭)の前後の休講期間を終えて,秋学期後半の授業が始まったばかりです.東進では12月になり,低学年の生徒さんは新たな決意を元に,受験生はいよいよ1ヶ月後に迫る共通テストに向けて,それぞれ勉強に励んでいると思います.今回は,僕が最近勉強している量子力学について,「量子論の基礎」(清水明,サイエンス社)を参考にしながら,自分のわかったことをまとめながら,量子力学の考え方について紹介したいと思います.なるべく数式は使わず,大まかな雰囲気がわかるように頑張ります.

    と,言いつつもまずは古典論とされる物理学 ―皆さんが高校で勉強している力学や電磁気学など― はどのような考え方をしているのか復習してみましょう.ここでは,ボールを投げることを考えてみましょう.まず,ボールには色や形,重さ(注1)や場所,速さ(注2)がありますね.これを「物理量」と呼びましょう.茶色で0.6 kgの丸いボールが30 km/hで僕の手から投げられました.ちょうどバスケットボールみたいですね.このボールはいつでも色や形,重さや速さがあります.そして,そのボールの写真を取れば色や形,位置はわかります.速さはスピードガンで測りましょうか.このように「物理量」を測ることを「測定」と呼びます.そして全種類の「物理量」―色や重さだけでなく,匂いや味なんかも考えてもいいかもしれませんが―が全部わかったら,それはボールの状態がわかったようなものですね.このようにある時点での「物理量」を全部表に書いたら,それの値のことを「物理状態」と呼びましょう.おっと,最初に投げたボールを忘れていました.もうボールはリングに届きそうです.このように「物理量」が時々刻々変化することを「時間発展」と呼びましょう.

    これをまとめると次のようになります: 「『測定』するかしないかは関係なく,全ての『物理量』はいつも定まった値を持っている」.ところで,前の段落で紹介した「時間発展」を予言出来たらなんとうれしいことでしょう!シュートを打った瞬間に僕が打ったシュートが入るか外れるか,外れるとしたらリバウンドはどこに落ちるかわかるのですから.また,僕がディフェンスのプレイヤーならば,どのタイミングで飛べばシュートをブロックできるかわかるのですから.このように,「最初に『物理量』がわかったら,そのあとの『物理量』は全部完璧に予言できる」として作られたのが古典論です.

    一方,量子論ではどうでしょうか?量子論を考えるときも,何か測定を行うことを考えます.そうですね,測定することができる値を物理量と呼びましょう.では,測定すると,全ての物理量を同時に測定できるのでしょうか?答えはNOです.さまざま実験事実(注3)によればそうなっているようです.しかし,1つの物理量だけは測定できます.再び,先述したバスケットボールの例を考えてみましょう.このことは,古典の世界で例えれば,ボールの色と形の高々1つ(注4)同時にわかるということです.しかも,なんと厄介なことに,同じボールについて測定をしても,毎回の値はばらついてしまうということがわかっています(注5).これは,例えば,ボールの重さがあるときは0.6 kgになったり,あるときは0.9 kgになったりするということです.とはいえ,同じボールの測定が点々バラバラになるわけではなく,とてもたくさん(注6)測定すると,それらの値の分布は一致します.では,物理量とは別に物理状態という抽象的なものを考えましょう.物理状態とは,物理量から測定値の分布を対応付ける(注7)ものです.そろそろ疲れましたか?もう一息です.最後に時間発展を考えます.時間発展とは,測定を行ったタイミングによって測定値の分布が変化することです.

    まとめると,以下のようになります: 「あるタイミングでの物理量すべてを人間が把握することはどうやら困難らしい.また,同じ状態のものを何度も測定したとしても測定値はばらつく」.これはとても奇妙な話で直観と反しているように思えます.しかし,このようなことは実際に存在していて,例えば,皆さんの使っているスマートフォンの中の半導体を導線や,非常に低温にした環境ではこのような現象を観察することができます.このように,「最初にわかった物理量物理状態(注8)が時間が経つにつれて変化することによる,測定値の分布の変化を予言する」ことが量子論の枠組みです.

    さて,なんとなく雰囲気でもわかりましたか?このブログを通して少しでも量子力学についての興味が湧いたら幸いです.僕はこのような直観に反する現象に興味があるので量子力学について勉強しています.将来は小さなもので大きなことを変えられる人になりたいです.

慶應義塾大学理工学部物理情報工学科 青木 陽

 

注1, 2: 正確にはボールに固有の物理量として慣性質量や重力質量を考える必要がありますが,ここでは容易にイメージをするために「重さ」と書いています.「速さ」についても「速度」をやわらかく言いえただけです.

注 3, 5: Youngの実験についてインターネットで検索してみてください.

注4: 「高々」と書いたのは,当然測定を行わなければ0個の物理量についてわかることを強調するためです.

注6: 確率分布を考えるということです.

注7: 物理量から測定値の確率分布への写像です.

注8: 時間変化するものを,Schrödinger 描像であれば物理状態,Heisenberg描像であれば物理量にそれぞれ押し付けます.

 

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